【連載】タンデム自転車体験記「初めての海外旅行 台湾サイクリングに参加して」その2 出発までの苦労と不安 阿佐 和幸
【連載】タンデム自転車体験記
「初めての海外旅行 台湾サイクリングに参加して」
阿佐 和幸
その2 出発までの苦労と不安
5月になり旅行の日程とだいたいの旅費が伝えられた。8月22日から26日までの4泊5日間で、飛行機は「ジェットスター」と言う今流行りのLCCを使うとのこと。航空運賃がだいたい3万円。宿泊やその他の費用を含めるとだいたい9万円くらいとのことだった。さすが、LCCだけあって、航空運賃は想ったよりも安いのだなあと感じた。
障害者割引を使わずに、大阪から東京を新幹線で往復するのとほとんど変わらないくらいと言うことに、安さを実感した。
初めての海外旅行と言うことで、やらなければならないこともそれなりにある。まずは、なんと言ってもパスポートを取得しなければならない。今やパスポートを取得することは一般的にはそんなに難しいことではない。また、台湾への観光旅行であれば、今はビザもいらないし、特別な予防接種を受ける必要も無い。
沖縄に行くのとほぼ同じ感覚で、行くことができるのである。
しかし、私の場合はそういう訳にはいかなかった。
友人などにパスポート取得について聞いたところ、
「職員に代筆を頼むのは難しい。名前のサインは自分で書かないといけない。」や、
「いやいや、代筆もサインも職員がやってくれる。」などなど、視覚障害者への対応がしっかりと規定されていないようであった。
しかし、今の時代ほとんどの公的書類については、職員が代筆してくれるので、パスポートもたぶん大丈夫だろうという安易な考えがよぎった。
そして、市役所で必要な書類を揃えて、いざ谷町4丁目にある大阪府パスポートセンターへ出向いた。事情を伝え、職員の代筆が可能かどうか、問い合わせた結果、答えは無情なものであった。
・ 職員いわく、「パスポート取得に必要な内容を、職員が本人に替わって、記入することは、外務省の通達により禁止されている。パスポートは極めて重要な本人確認書類なので、偽造があってはならない。そういうことから職員が、記入することは何があっても絶対に行うことはできない。」
・私いわく、「過去には視覚障害者に対して、代筆したことがあると数人の視覚障害者にも確認を取ったので、それらの例も調べて何とか代筆してほしい。」
・職員いわく、「もし過去にそういうことがあったとすれば、その職員は重い処分を受けないといけない。とにかく絶対に記入できない。家族か旅行に行く付き添い者に書いてもらいなさい。」
・私いわく、「家族は高齢で、アルファベットや小さな文字を書くのが難しい。旅行に行く人はいつ会えるか分らない。もし、なにも関係ない隣の人や私の友人が書いても良いのか?」
・職員いわく、「本来は好ましくないが、隣の人を付き添いとして正しく書類に記入されていれば、その人が旅行への付き添いと言うことを認めざるを得ないので発行できるだろう。」
と言うようなやりとりを40分くらい行った。そして、もうこうなると私の言い分を通すには、障害者差別についての不服申し立てをするか、裁判でもやらないとどうにもならないだろうと思い、誰かに書いてもらうこととして、重い足取りで帰宅した。 家族が書くのもやはり不安があると言うことだったので、近々Oさんに会う機会があるので申し訳ないが書いてもらうこととした。そして、5月の中頃に無事にOさんと会うことができ、書いていただいた。再びパスポートセンターに出向いたが、「書類に不備がある。申し訳ないが、もう一度同じ人に書き直してもらう必要がある。書き方を示した例を付箋に貼っておくので、それを見ながら書いてもらってください。」と言うことで受理されなかった。
仕方が無いので、大変申し訳ないなあと想いながらOさんにそのことについて連絡したところ、私の家の近くまで来ていただけることとなった。後日Oさんと再び会い、書類を書いていただいた。
3回目のパスポートセンター訪問でやっと書類が受理された。
職員いわく、「最初から付き添いの方と来ていただければ、こちらもいろいろと説明できましたし、そちらにも手間を取らすことも無かったのですけどね。」などと言われた。ここまで代筆について厳格に断られるとは想像もできなかった。
そして、約1ヶ月かかり、4回目の訪問でやっと10年有効のパスポートを手にすることができた。
ようやく軽い足取りで帰宅した。Oさん、旅行に行く前からいろいろとお手数をおかけして申し訳ありませんでした。
それにしても、せめて余分な2回分のセンターへの往復の交通費くらい返してもらいたい気分であった。
そして、いよいよ8月となった。外は連日の猛暑である。台湾もたぶん猛暑だろうと想うので、果たしてそんなに暑い中、サイクリングなんてやって体がどうかならないか心配になってきた。しかも外国である。日本と違い自由に水は飲めないらしい。
☆サイクリング中に喉が渇いたらどうしたら良いのだろうか?
☆食事の時はなにも飲まずに食事をしないといけないのだろうか?
☆風呂から出て喉が渇いたらどうしたらよいのだろうか?
などなど、海外経験者にとってはなんと言うことも無いことかも知れないが、私にとってはすごく心配になってきた。
しかも、8月になっても詳しい旅行の日程や宿泊するホテルなども分らない状況だった。
また、職場の友人いわく、「旅行の主催者が冒険家のような方と言うことは、一般人にとっては相当に無理な日程かも知れないぞ。それなりに覚悟して行かないとしんどいかも。」などと、半分冗談だろうが脅かされた。
そうこうしているうちに、8月の15日となり、Oさんに会う機会を得た。そこで詳しい日程を聞いて、これまた不安になった。
・台湾も猛暑で39℃になったこともある。
・サイクリングは3日間で、23日は約45km。
・24日と25日は約60km。24日は坂も多いので、当初全日程男性のパイロットとしていたが、その日は女性のパイロットに変更する。
数字を聞いて、これまた驚いた。今まで1日にタンデムで走った距離は最高でも15kmくらいである。しかし、今度は連日猛暑の中を経験したこともない私にとっては、とてつもない長い距離を走らないといけないようである。
本当に体が持つのか今度は真剣に不安が募るようになってきた。しかし、このチャンスを逃せばいったいいつ海外に行けるか分らない。もし、しんどくなれば、そのときは何とかなると信じよう。
とにかく、どういうことになるのか解らないが、あんなに苦労してパスポートを取ったのだし、行くことに意義があると信じて行ってみよう。と、いう決意を新たに近くの旅行会社で旅行保険を申し込み、出発を待つこととした。
ところが、出発の前日、台湾には台風が接近している。これからいったいどういうことが待ち構えているのか、期待と不安とが入り乱れる中、8月22日のものすごく暑い出発の朝を迎えることとなった。
・・・次号に続く
寄稿者:阿佐和幸(大阪でタンデム自転車を楽しむ会会員/視覚障がい者)
「ウィズ東淀川のブログ」より転載(掲載日:2013年11月19日)
大阪でタンデム自転車を楽しむ会
■ホームページ http://www.tandem-osaka.com/
「イベント案内、貸出情報、入会案内などを掲載しています」
■フェイスブック http://www.facebook.com/osaka.tandem
※あおぞら財団は同会の事務局です。